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マツの剪定

松の手入れの仕方を図解します。

動画に挑戦しようとしましたが、マツは枝数が多過ぎて分かりにくいため、写真にしています。

松の手入れは難しい・・・?
 植木職人の間でも、「松の手入れは難しいから」とか、「松ができれば一人前」という声をよく聞きます。確かに他の植木に比べてマツの手入れは難易度が上がります。しかし一方、素人でも自分で手入れをなさっている方が数多くいらっしゃいます。

 

 松は「難しい」というより「面倒」です。昔から「松は金食い虫」と呼ばれます。手入れに時間がかかり、職人さんの日当がかかるからです。今回、見本にする松は高さ2.2m、樹齢20年弱で、松としてはごく小さな部類ですが、おおざっぱに剪定しても2時間くらいかかります。大きな松になると2,3日かけて剪定することも珍しくありません。

 

 松の剪定が面倒な理由は以下のとおりです。

①小枝が四方八方に伸びているため、切るべき枝の見極めが難しい。

②一箇所から出ている芽の数が多いため、手数が多くなる。

③無理に刈り込むと、形が乱れる、あるいは部分的に枯れる。

④チクチクするので集中力が持続できない。

 

 

 ④はともかく、③については、刈り込みバサミやヘッジトリマーで一気に丸くしたい気持ちは分かります。確かに手入れをしたその日はそれなりに決まるでしょう。しかし、その後、一箇所から膨大な数の芽が出て、ゴツゴツした形になったり、棒状に切られた箇所が枯れたり、断面が茶色くなったりして、後々、収集がつかなくなります。松は木バサミを持ってじっくりと対峙するのが定石です。

松の剪定時期

 東京あたりでは一年中、職人さんが松の手入れをしている姿を見かけます。いったいいつが適切なのでしょうか。

 本来、マツは春に「ミドリ摘み」、晩秋に「もみ上げ」という作業をするのが基本です。こうした手入れを適期にしていれば、これから解説するような剪定(整姿)を慌ててしなくてもいいはずです。

 しかし、そんなにマメに手入れできないという方は、晩秋に行うのが最適です。なぜなら、春から初秋にかけては新芽が成長したり葉が落ちたりして松の姿がすぐに変わるので、剪定時の姿を維持できないから、真冬は木にダメージを与えるからです。

 ちなみに、これから解説する方法は、年に一度だけで簡単に済ませたいという方法です。「ミドリ摘み」については機会を改めます。

 

作業の前に・・・

 松を剪定すると、必ず作業服に松脂が付着します。洗濯しても落ちません。「この服はもう要らない」というような松専用の作業服(上下)を準備しましょう。お気に入りのビンテージジーンズなんかでやってはいけません。

 

 そしてできれば「手甲」(手首をガードするもの)か袖の長い服、そしてゴム手袋を準備しましょう。昔ながらの職人さんは、素手でやることにこだわりますので、「ゴム手袋」なんて聞いたら怒声が上がりますが、手肌の柔なビギナーは、チクチクして作業に集中できません。

 

 また、脚立や踏み台あるいは足場板等をきちんと用意しましょう。足場が悪いと、「体勢がきついから、まぁこれでいいや」、とか、「届かないから根元から切っちゃえ」という判断になりがちで、どうしても作業が雑になります。慣れないうちは小さな松でも一日で仕上げようと思わず、数日かけてやるくらいの心構えでよいかと思います。

 

松の剪定の基本①

松の剪定方法

 わかりやすくするために、まずは一本の小枝を地面に置いた状態で話を進めます。この画像の小枝は剪定前の状態ですが、葉の数が多すぎます。遠くから松全体を見た場合、葉と葉が重なり合って、全体としては鬱蒼とします。

 この葉を適切な量にするには二通りの方法があります。

マツの剪定方法

 一つ目は、枝を途中で切る方法です。「中止め」といいます。簡単に葉の量を減らし、枝の長さを短くする方法です。剪定の教科書では赤松に、この方法を使うことを禁じているものもあります。赤松は黒松より性質が弱いため、貧弱な枝では元から枯れることがあるためです。ただし私の経験では、「必ず枯れる」というわけではありません。赤松であっても場所によっては止むを得ないこともあります。

アカマツの剪定方法

 二つ目の方法は、枝を切らず(ハサミを使わず)、下の方の葉を手でむしりとる方法です。この方法だと枝の長さは変わりません。柔らかく仕上がるというメリット、やや面倒というデメリットがあります。
 この方法は「もみあげ」と呼ばれる方法です。特にアカマツでは優しく古い葉を取り除くこととされています。手袋を着用していると不可能ですので、「もみあげ」をする場合は手袋を外します。

 

以上が松の剪定の基本中の基本です。


松の剪定の基本②

 次は複数の小枝をどう揃えるかについてです。結論としては、他の庭木同様、「Yの字」に揃えるのが基本です。

 上の写真は、ハサミを一回使っただけです。お分かりでしょうか。真ん中の太い枝を元から切っています。松に限らず庭木は放っておくと真ん中の枝にエネルギーが集中しやすく、真ん中だけズンズン太く伸びる傾向があります。

 別の機会で説明しますが、庭木の美しさというのは、短い枝がたくさんあってこそなのです。真ん中の枝だけが元気なのは見た目のバランスが悪いとされます。これを切ることで見た目をスッキリさせるとともに、エネルギーを分散させ、将来的には枝葉を密に成長させることができます。

 

上部の枝の剪定

 松に限らず、木の剪定で大事なのは最上部をきっちりと仕上げることです。上をしっかりと剪定すれば、他の部分の難は多少隠れるといっても過言ではありません。

 しかし実際のところ、一番厄介なのも上部の枝の剪定です。特に数年間、放置していたような松はやや面倒です。

松の剪定 図解

 これは2年間放置した松の最上段の枝の内部です。これまでに「Yの字」だとか、「もみあげ」だとか説明しましたが、みなさんがいざ、自分でやろうとして最初に目にするのは、この写真のような光景でしょう。

 

 なにから手をつけていいか分からない鳥の巣状態です。しかし、これでひるんではいけません。冷静に作業を続ければ道は開けます。

 

 最上部の剪定で、最初にすることは次の2つです。

①枝の内部にある小さな芽を傷付けないよう気を付けながら、手で簡単に取れる古い葉(茶色い葉、濃緑の葉)を取り除く。

②太すぎる枝(親指~小指くらいの太さ)を元から切り取る。

これだけでだいぶすっきりして、仕上がりのイメージをつかめるようになるはずです。全体の形は半球状で、それぞれの小枝は、前述のように「Y字」あるいは「中止め」で剪定していきます。

 剪定前の写真では、ピンと伸びたクリーム色の新芽が目立ちますが、「これをどうするのか」というのは、あまり考える必要がありません。なぜなら、相手にするのは内部の枝だからです。では、内部の枝を「Yの字」にする方法を列挙します。

 

「Yの字」に剪定する方法

例1 上の方の枝

 例1は、最上部の枝の剪定例です。左端の太すぎる枝を元から切り除いて、さらに真ん中の細枝を切って、Yの字を作っています。「こんなに切って大丈夫なの?」という写真ですが、あくまでこれは、最上段の枝の例です。上の枝は短めに、下の方や、日陰の枝は長めに残すのが基本です。

 

例2 上から中段にかけての枝

 例2は、

①真ん中の枝の先端を1回切る

②付け根の古い葉をむしりとる

③先端に残った葉の量を手でむしりとって調整・・という流れです。

 

例3 上から中段にかけての枝

 例3はよく見かけるパターンで、なおかつ不慣れな方が戸惑う形状です。一箇所から数多くの小枝が発生しています。しかしこれも、バランスを考えて2本だけ「Yの字」に残せばいいのです。この際、極端に弱った枝、極端に強い枝を残すのは不適切です。

 ここまでは細かな「Yの字」でしたが、次は大きな「Yの字」です。

 

例4 下の方の枝

 例4は中段、下段に見られる枝です。庭木は上の方を薄く、下の方を濃くして葉を残すのが基本です。下の方の枝を、例1のように剪定することはありません。下枝は上に比べて日照量が少ないため、より多くの葉を必要とします。少し分かりにくいかもしれませんが、先端を「中止め」して、古い葉をもみ落としただけです。

 下へいくに従って、剪定は楽になります。下の方の日陰の枝は何もしない、ということさえあります。

 

松の剪定の裏技

 いくら枝を切り揃えても、しっかりと揃わないことがあります。そうした場合、裏技を使います。本当は内緒にしておきたい仕上げのスパイスです。

①ほんの少しだけ刈り込む

 全部を刈り込むのは言語道断です。しかし、すべての枝に手を入れた後、細い葉が作る輪郭を揃えるために、木バサミで少しだけ刈り込むと、仕上がりが俄然よくなります。特に最上段の輪郭は揃えるべきです。切り口は後日、やや汚くなりますが最上段であれば人の目線からは分かりません。必要最低限で「葉刈り」します。

 

②垂れている葉は、手でむしりとる

 なぜ輪郭がビシッと決まらないのか?

 多くの場合、垂れ下がった、だらしのない葉っぱのせいです。「Yの字」に剪定した後、水平より下に下がっている枝を手でむしると、きれいに仕上がります。ただし、やりすぎると寂しくなりますので、ほどほどに。

 

剪定していない松

おわりに

 

 剪定の仕方は人によって、地方によって異なりますので、あくまでも参考としてください。私は、なるべく自然に柔らかくをモットーとしています。雪の多い地方では、この剪定例では枝数が多すぎるでしょう。

 

 最後に余談ですが、右の写真は、今回用いた松と同じ時期に植えられた松ですが、完全にほったらかしのものです。背丈、幅とも倍以上にたくましく育っています。これはこれでワイルドでいいのですが、家庭の庭には収まりません。

 

 松は仕立ててこそ値打ちの出る木です。また、生命力の象徴とされることもあるように丈夫な木です。失敗をおそれずに剪定に挑戦してみましょう。枝に葉を残しておけば、簡単に枯れることはありません。

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